進学セミナー西川塾 城星教室 / 十足教室 の日記
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海上の位置
2024.08.01
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自分が何も見えない海の上でどこにいるのかわからない。人間は未知の物や事象に恐れをいだく。広い広い海の上でただ見えるのは青い海原と水平線だけ....これは恐怖だ。
現在ではGPS。これはクルマで言うナビ。日本上空のアメリカの商業衛星からの信号をひろって自分がどこにいるかを正確に表示してくれる。20年くらい前までは20mのズレがあったが、今では1.5mまで精度が高くなったから感謝だ。GPSはもともとベトナム戦争の時の米軍ミサイルを如何に敵の基地や水上目標に命中させるか...と言うテクノロジーを戦後民間に払い下げたものだ。
閉話休題
...という訳で現在は3人乗りの小型船舶でさえ簡単なGPSを積んでいるからありがたい。
ボートで沖釣りをするときに使う機能は2つだ。
まず、漁場のポイント(サカナが特にいる海中の場所)をマークしてあるから、風と波の状況が許す限り「一直線」に最大船速+最短距離で海上をすっ飛んでいく。これが一つ。
次に「夜明け前」「海上の濃霧」の時に目的海域に進むときにはこれほど頼りになるものは他にない。とにかく手探り状態の海面を微速前進だが進めるのは凄い。最も自船は海上レーダはないから、こういう時は近づいてくる他船のエンジン音をじっと聞きながらの操船になる。初めから濃霧なら出港しない(マリーナの許可がおりない)が、航海中や帰港中に突然の天候急変の場合の話だ.....実際10年間で1回だけ10m先も見えない濃い海上濃霧になったことがあり、この時ほどGPSが役立ったことはなかった。駿河湾の大瀬崎付近から牛臥のマリーナまでGPSを頼りに他船との衝突におびえながら約10kmの海面を時間をかけて微速で帰港したっけ.....
説明するまでもないが、普段は沿岸を航行する船はGPS(ナビ)を補助的に使い「目に見える陸上の景色+目標物(海事用語ではこれを物標と言う)」を見ながら航海している。
問題は沿岸から離れて遥か沖合に行った時である。
GPSが一般的になる以前は大変だった......水平線とその時に見える天体(昼間なら太陽・夜間は星)を正確に計測し、その瞬間の時間を1秒の狂いもなく書き留める。その後の計測値によって自分のフネの「緯度・経度」がわかる。
この天体と水平線をはかる航海機器を' sextant 'という。日本語では六分儀と訳されている。古くは幕末の海軍伝習生たちが(多くは幕臣の子弟)オランダ人教官の指導の下 徹底的に叩き込まれたのがセクスタントの使用法だった。
後に幕府がオランダに発注した軍艦の受け取りと日本への回航は伝習生たちのみによる実地操船で達成されたと聞く。
私も40年前に船舶操縦士4級に受かり嬉しかった時に担当教官から「このまま勉強と操船を続ければニシカワさんなら1級も夢ではありませんよ」と言われその気になった。
ところが当時の試験は厳しく「尾道の海技訓練施設に2週間の座学と実地訓練」その後現地で受験のスケジュールだった。
仕事(塾)を2週間休む.....実技でセクスタントを使いこなし海上の自分のフネの緯度経度を正確に計算する。この2つがネックになって瀬戸内海の尾道海技学院には行けなかった。その後 時は流れてGPSが一般化され、1級船舶操縦士の試験科目から六分儀(セクスタント)の使用が省かれた。だから今 私の海技免許は1級になれたわけである。
法令上は日本の沿岸からの距離に関係なく何処までも行ける免許だ。
でも それはムリ。予備燃料を積んでも巡航速度で5時間もたない。
きりがないのでこの辺で。
Sextant 六分儀