進学セミナー西川塾 城星教室 / 十足教室 の日記
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江戸時代.....釣り
2024.07.28
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釣りは簡単に言えば「竿にたらした糸」でサカナを獲る漁法であって、それこそ縄文時代以前にさかのぼる。食料としてサカナを獲ることが目的だ。
これが江戸時代になると何故か本来のそれ以外の目的としての釣りが行われるようになった。その一つは武士道の鍛錬としての釣りだ....釣りのために準備をする。釣りらんとするサカナの習性に応じて竿の長さ・仕掛け・鈎・エサを最適のモノであるように調整する。その過程が戦(いくさ)の準備にも似ている....いや「釣りは戦」そのものと心得よ。
「だから親父はあんなに釣りに厳しかったのか」と最近、釣りの歴史を調べていて少し親父の気ちがいじみたストイックな釣りにかける情熱がわかった気がするのである。釣りを通じてわが子を鍛えようとしたことがようやくわかった次第。
話を江戸時代に戻そう。
徳川家康が江戸に幕府を置き江戸時代が始まったのが1603年で、天下分け目の闘いの関ヶ原合戦に勝利して3年後のことだった。以後明治までの約300年間を江戸時代と呼ぶ。
江戸時代の大名の負った義務の大きなものに参勤交代があった。これは「江戸に大名は妻子をおき、定期的に領地と江戸を往復すること」であった。各大名が江戸に置いた屋敷を何々藩..江戸屋敷というが、領地から江戸屋敷に勤務を命じられやって来たサムライたちがいた。これを江戸勤番という....各藩のサムライたちが江戸屋敷勤務で領地から出てくるのだが、はるばる江戸へ出て来て共通していることは「ヒマだ」ということ。
外国と戦争しているのでもないし、国内での戦(いくさ)もない....とすると仕事と言えば「維持管理」となる。これは今も昔も同じだ。
江戸勤番のサムライたちが持てあます時間をどう使おうか....と思っていた時に目に入るのは江戸湾の青い海であった。
そこで「武士の釣り」が始まった。
お台場、墨田川の河口から今のTDL(ディズニーランド)のあたりまでポイントが続くサカナの宝庫だったらしい。狙うサカナは当時の文献によると「シロギス・ハゼ・カレイ・イシモチ」などだった。当時の漁具ではリールもなく竿もどんなに長くても今の5.4mくらい。さぞ苦労したことだろうと思う。
でもここで驚くべき事実があった。
それはどの時代にもある「戦時技術の民間への転用」である。戦国時代までの弓矢をつくる技術は「竹竿の技に」火縄銃の鉄砲玉製造の技術は「釣りのナマリのオモリ」をつくる技となって受け継がれ進化して行った。
さらに当時の人口急増する江戸庶民の米飯好みも釣りを後押ししたと言うからこれは面白いと言わざるを得ない。
毎朝 江戸では町民から武家に至るまで一斉に「ご飯を炊いた」。ご飯ジャーも冷蔵庫もないんだから、朝1回の炊飯で1日分を炊く。当時は摂取カロリーのほとんどを米食で摂っていた。1人で5合のコメを食べていたそうである。そのとぎ汁が大量に...江戸の掘割りをつたわって江戸湾へ。河口ではほどよい栄養の補給でプランクトンが発生した。
このプランクトンをエサとするイワシを始めとする各種のサカナの幼魚が豊富に育ち、やがては江戸湾の豊かな漁場となった。
その豊かなサカナを釣る漁師・漁民以外に台頭してきたのが前述の「各藩 江戸勤番のサムライ」藩士たちであった。それが突破口となって、江戸の庶民にも釣りが大流行。
つくづく....いいなあ。と思う...思う以上に心の奥底で共感する..響く何かを感じるのである。今でも人気のある江戸川や隅田川の河口のハゼの船釣りもそうだが、江戸の掘割りが太く重なる「淵」には夕方からナマズ釣りに出かける人間が多かったそうである。
ナマズは白身でクセがなく淡泊な味。調理してから食すると「これがナマズか!?」と驚くくらい美味だ。町人も武家も等しくナマズの夜釣りに出かけたという。
それはすべて今の日本の釣りに受け継がれ、のちの工業化のテクノロジーの発展を取り入れて来た。
画期的なものがいくつかある....
ナイロンの道糸:戦後急速に開発されそれまでの「漁師のテグス」から「誰もがナイロン」の時代になり高価な「糸」を気にしなくてよい時代になった。
スピニングリール:それまではキホン「竿の長さ」しか道糸がないので、釣りの範囲が本当に限られていた。リールの出現によって「リールに巻いた糸の長さ」を探れるようになり特に岸からの釣りに革命的な発展があった。
P.E.:短縮してPEというが、これは道糸に使う。ナイロンとの決定的な違いは「伸び」がないこと+強度がけた外れ という2点だろう。ナイロンは安価だがかなりの「伸び」があるので海中で50~100m先のサカナのアタリは弱くなってしまう。それがPEだとダイレクトにつたわってくるから凄い。あとリールに巻くときにナイロンで4号ならPEにすれば1か2号で済む。そのくらい強度に優れる。
電動リール:アジ釣りの深さ40mくらいまでならマニュアルの「手巻きリール」で大丈夫だ。これがアマダイの80mとかムツの200mになると手巻きではムリ。12VのDC(直流)で動く電動リールが市販されているから深場を狙うにはマストアイテムになった。
書きだすともう止まらない。
悪いくせなのでこの辺にしておきます。
今 自分が沖へ出てアジ・サバ・イサキなどの釣果に恵まれるのは決して自分だけの努力や鍛錬によるのではなく、先祖からの....特に江戸時代に試行錯誤の苦労の末に編み出した漁法や漁具による恩恵によるものとつくづく思う。
ただただ感謝....