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進学セミナー西川塾 城星教室 / 十足教室     の日記

最後のあいさつ

2023.10.08

人は自分の命が尽きることを予知するのだろうか。

私は2人の友によってこれを体験することになるとは思ってもみなかった....

1人はA君と言って私よりずっと年下だが同じ大学の後輩だ。学部も違うが私の出身大学は全国の都道府県ごとに校友会を作って活動しており、A君とは同じ静岡県の校友会で知り合った。彼は若いけれど落ち着いていた。複雑な家庭環境や自らの学費を稼ぐために様々なアルバイトをしながら勉強していたそうだ。それが他の学生とは違った何かオーラのようなものを私は感じたことを思い出す。

彼は念願かなって卒論を提出し、教員になるための実習も終了。教員採用試験に合格した。その時のA君のこぼれるような笑顔に私は自分のことのような喜びを感じた。彼のそれまでの苦しみや悲しみ...血の出るような努力を知っていたから。

A君は晴れて県立高校の教員となった。私はもう結婚して家庭を持ち子供もいたから人生の経験値だけは彼より上だった。...そのためか彼は悩みや相談事を私に打ち明けるようになっていた。私も彼の信頼に応えようと心から思った。家庭の食事に招待してウチの息子たちとも親しくなって私も嬉しかった。

校友会の帰り道に三島の居酒屋で一緒に飲んだ....幼い頃に父親を亡くしたという彼の親父にはなれないまでも「兄貴」くらいにはなっていた自覚があった。

そうこうするうちに数年がたったころA君は病に倒れた....脳腫瘍だった。

しばらくメールもつながらないな...と思って彼の携帯に電話してみたら出たのは彼のお兄さんだった。そうして初めてA君が脳腫瘍で意識を失って倒れたこと。そしてそのまま藤沢の専門病院に入院していることを知った。

幸い、その後1週間後に意識は回復して意思の疎通はできるようになり私とメールで連絡できるまでになった。私も嬉しかった....これで順調に回復すれば高校の教育現場に復帰できるゾ...とさえ思った。

脳腫瘍は西川の長兄の伯父の命をも奪った病だが、氷河期の間に一時的に訪れる穏やかな時期のように思える時間を本人と家族に与える。

A君はtemporaryに回復して小康を得た時間があった....数週間か1か月だったか。
すかさず私に連絡して来た「身体の調子がいいので伊東まで行けそうです!」
私も「いいよ!よかった。ウマいものを食べよう(A君は下戸でまったく飲めない)」

だから伊東で一番美味しいトンカツの店に行った。「カツ」は「勝つ」に通じる。
私は彼に病魔を克服して健康になり充実した人生を歩いて行って欲しかった。
ただただ...それだけを念じて二人で「トンカツ(特上)」を食した。

「西川さん...こんなに美味しいトンカツは初めてです」とA君。その時に彼の中に喜びと同時に....何か言葉では表現できない一抹の不安というか悲しさを私は感じたことを思い出す。

伊東駅まで湯の花通りを一緒に歩いて改札口までA君を見送った....10分後くらいで熱海行が来るだろう。これからどうなるかわからないがA君とゆっくり話せてよかったなぁ。

そんなことを思いつつ、私は駅の隣接された駐車場で自分のクルマを見つけて乗ろうとした瞬間だった。

大きくはないが.....絞りこむような声で「ニシカワさ~ん!」と言うA君の声が聞こえた。

見ると....駅のホームにA君が見える。隣接parkingにいる私を見つけたのだろう。

思いきり手を振っている....

いつも寡黙で声も小さいA君の声はこの時にハッキリと明瞭に聞こえたのが不思議だ。

A君とのこの世のつながりはそれが最後になった。

職場に復帰もかなわず...脳腫瘍でついに帰らぬ人となった。

毎年 秋になると彼と行った三島の居酒屋を思い出す。

「忘れないこと」......ただそれだけが死者への憐れみなのではないかと思う。


      May God save us all.




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