進学セミナー西川塾 城星教室 / 十足教室 の日記
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医者になった生徒...
2019.04.17
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塾を始めてもう35年以上過ぎた。その長い年月の間には本当にいろいろなことがあった。まさに私の人生の悲喜こもごもそのものだった。
喜ぶべきは理系に進んだ塾生のなかに医師・歯科医師・薬剤師になった者がいたことだろうか....因みに医師と歯科医は男子生徒で薬剤師は女子生徒であった。
この塾生たちは塾の高校クラスで私が大学受験英語を教えた子たちだ。恥ずかしながら私は高校生の指導についての所持免許は英語教員1種免許なので「大学受験の英語」のみ教えている。センター試験と大学の2次試験(志望大学実施による)をクリアが目標だ。
だから私は生徒が国立志望だろうが、私立を考えていようが容赦なくのめりこむように教えたことを思い出す。
彼らも進路が理系であるのによく私の英語特訓に耐えたものと思う...普通ついて来られないで....drop-outして行ったものだが。
では実際に志(こころざし)を果たした彼らがどんなふうに勉強し...悩み...また勉強して行ったのか?
おそらく、皆さんはこのあたりが一番興味があるであろうと考えるので実名は伏せて具体例を挙げてみたい。
I君は地域の秀才だった。かつて私が西伊豆に分教室を持っていたころの生徒だ。ある日、彼のお母さんからI君の大学受験英語の指導を希望したいという話があり、毎週土曜日に西伊豆の自宅まで通って教えた。
母親は学校教員で父親も公務員...という経済的には安定した家庭だったように記憶している。両親のDNAを受け継いでI君自身も努力を重ねて素晴らしい成績を修めた。
高校の3年になってI君には悩みが生まれた。
それは国立大学の医大か....私立の医大か?
何でもオープンカレッジで国立と私立の医大を何校かそれぞれ1日ずつ見学して見たらしい。これは医大に限らず、高校のオープンキャンパスでも同じなのだが....「何としても生徒・学生を獲得したい」私立の高校・大学はまさに....乾坤一擲!この時とばかりに生徒・学生募集に全力を尽くす。
近代的設備...最新の医学情報による検査機器...そうそうたる教授陣を広告会社・出版社・
TV・新聞...のすべてのmediaを通じて「私立」は新学期に大々的に売り込む。
医大は6年制だ。国立なら400万円が私立なら最低でも3000万円が純粋な学費である。
国立なら奨学金を申請して実家からの仕送りとあわせればナントかなる金額だが、私立はそうはいかない。親が開業医や会社経営の学生がほとんどである。
因みに医大生の場合、私の知る限りではアルバイトは事実上不可能だ。
一般教養科目の厳しさ・専門科目のけた外れの難しさ・臨床実習では気力体力を睡眠時間を確保して、しっかり食べていなければ確実に倒れる...と聞いた。
医大生ならバツグンに勉強ができるだろうとの思い込みから「家庭教師」や「予備校の講師」に引っ張りだこだろう...稼げるなぁ、などと考えてもそれは想像に過ぎない。実態は遥かにキビシイ。
医大生は親が繁盛している開業医でもない限り、ギリギリの生活と学業に励んでいる。
I君の場合は涙ながらの親子の話しあいの結果...本人が最も希望した名門私立のK大医学部を受験。見事合格した。
その結果....6年間の学費のために親は先祖から伝わる「山」を売った。
I君は今K大学病院に勤務する優秀な外科医である。
彼は小学校から懸命に勉強する生徒だった。両親は一人っ子のI君を心から愛した。それは私が知る限り決して溺愛ではなかったと思うから偉い。
わが子に愛情を注ぎながら、必要な時には厳しかった。西伊豆の1家庭であったがAmericanの家庭を見るようであったことが記憶鮮明に残る。
ご両親はI君と過ごした生活の中で、わが子が犯したミステイク(まちがい)は許さなかった。キビシイ.....!
「何が悪かったのか?...どうすればよかったの?...では今後どうして行くのか?」
この3つを考え反省し...しかも実践できた家庭であった。
よく「子どもには最高の教育を」と言っても出すのは多額の学費のみ...両親とも好き勝手に生きている...そんな家庭ではロクな子供は育たない。
親の立場からすれば実にツラい...心に刺さる言葉ではあるが、子供が医師になるくらいの親は自分なりの「人生哲学」をもった人だ。損か得か...利益配分の不均等に敏感な人ではなかった。
言うなれば周囲とか社会がどうであろうと..わが子がどんな状態であろうと、自分の毎日をしっかりと踏みしめて歩いているそんな人だった。
どんなことがあっても家族を大事にして、しっかり仕事をする...その安定感が子供の心の安心と精神の安定を作りだす。
3人の理系に進んだ塾生OBはどんな子たちだったか...共通するのはどんな点だったか?
1.もの静か
周囲が騒いでも...良きにつけ悪しきにつけ、決して同調して興奮することはなかった。
2.ワルグチ・ウワサをしない
3年間教えていても誰かを悪しざまに言うこともなければ、人の噂をすることも聞くこともなかった。そういった類の声を聞けばそっとその場から離れた。
3.本を読む
理系の極致の学生なのだが、意外にも文学を読んでいた。I君など僅かの時間さえあればトルストイの「戦争と平和」とか日本文学では芥川龍之介の作品を好んで読んでいた。
4.予備校には行かない
医師になったI君、歯科医のK君、大学病院の薬剤師のSさんの3人とも「医科歯科大・薬剤師のコース」のある予備校には誰も行っていない。中学・高校の6年間を通じて自分なりに「必要な勉強」が何なのか...と言う取捨選択ができるようになっていた。
3人に訊くと「子ども...親だって大変な中から自分のためにお金を出してくれているのだから、自分は本当に必要な部分だけに貴重なお金を使いたいんです...」と言う。
結果「合格体験記を熟読して自分に応用できる部分を考える」「必要な参考書・問題集は高価でも準備する」「理系の模試は絶対に受ける」
実行した医大合格のために必要だったのはこの3つだったそうである。
因みに自分から医者になります...親が「ウチの子は医者にします」と言って10年..が経ち20年が過ぎても実現した例は皆無である。
人の命を預かる医師が個人的な願望だけでなれるものだろうか.....
高校時代からの親友M君は「他の学部卒で学士」を取ってから、さらに医大に進んだ。
ある意味..わが人生の宝だ。
今度会ったら訊いてみよう。
そういえば彼も「森鴎外・夏目漱石・芥川龍之介..」を良く読んでいたことを思い出す。
PS:写真は伊豆高原の「桜のトンネル」。人の世がどれほど移りかわろうと毎年季節はめぐる。この人間の感情や政治・経済に関係なくめぐる季節の中に日本人は仏教的無常観を...キリスト教圏に生まれ育った西洋人は神の「み摂理」を思って来たのである。
もうすぐEaster。日本人には極めてなじみの薄い....西欧ではクリスマスに次ぐ最大のお祭りを再認識しても良いのではないだろうか。
何と、宗教色ゼロを徹底しているはずの文科省検定済の英語教科書にも遂に' Easter’が出て来た。穿って考えれば日本の同盟国(?)の強い要望があったんだろうか?
まあいいだろう...世界中で無宗教・無信仰の日本人はどれだけ努力しても「信用」されず「真の友人」となりえないことの理由を考えるきっかけとなるのだから....。
