進学セミナー西川塾　城星教室 / 十足教室　　　　 | 日記 | 回天

もう戦後78年が過ぎてこの言葉「回天（かいてん）」を知る人も少なくなった。

回天の名には意味がある「天（運命）を回す」と言うこのころ既に劣勢となった日本の運命を新たに開く戦勝祈願の意味が込められているのである。回天を知っていても、命名の意義を知る人はまずない。

正直、私だって戦後生まれで知るはずもないし...ことさらに回天を強調するのはヘンだ。
風変わりな大学生が卒論に「終戦間際の特攻兵器」の題で調べない限り、日本人の中にも回天を知る人間はいなくなっていくのが自然だろう。

私は仕方ない。

西川の家に生まれていた。その事実が良かったか.....逆か？それは私がこの世を去ってから彼の地で自分が考えることだろう。

祖父は外房の御宿から明治時代に....それこそ「青雲の志」をいだいて上京し、刻苦精励した。そして大望叶い港区高輪に会社「品海社」を興した。今も本家として従兄が住まう所である。

西川の３番目の伯父は母の兄であるが....海軍に志願受験し、合格。土浦の海軍予科練を経て海軍航空隊に配属となった。練習航空隊から配属になったのは三重県の鈴鹿航空隊だった....今の鈴鹿サーキットだ。

1945（昭和20）年春....沖縄の米軍への航空特攻は海軍は鹿屋航空隊、陸軍は知覧航空隊から連日のように出撃していたが、よく整備された海軍の零戦も陸軍の隼（はやぶさ）も消耗して行った。やがて練習機や究極には前時代の複葉機さえも爆装して離陸して行ったと言う。


もともと爆撃機ではない戦闘機に500㎏もの爆弾を縛着して滑走路ギリギリで離陸して行くのだから沖縄まで飛べるだけでもオンの字だ。水平飛行がやっとの特攻機に上空からレーダー誘導された空母発艦のグラマン戦闘機が襲いかかる.....

この迎撃戦闘機を突破して、なお空母・護衛駆逐艦からの対空砲火を潜り抜けて最終approachできる特攻機は２％だ。

そこを考えて航空兵の中から....より確率（？）の高い水中特攻を志願する兵はいないか？という国家的悲願の結果.....志願したのは伯父を含む土浦の海軍航空隊の予科練卒の若者たちだった。

伯父は伊勢湾....どうも「二見が浦」の沖だったらしいが....で回天の航走+突入の訓練をした。敵艦に見立てた浮標の下を自らが操縦する回天があっぱれ通過できないと鉄拳制裁である。

回天は93式魚雷に「操縦装置」をつけたものである。

ゆえに...人間魚雷とも言う。

伯父は海軍航空隊の飛行兵であったが、鈴鹿航空隊配属のまま第6艦隊（潜水艦）の回天搭乗員となった。航空兵として訓練を受けたのに....伯父の心中も複雑だったろうと思う。

....という訳で。

伯父は終戦ギリギリには千葉県の館山海軍航空隊にいた。地図をご覧いただきたい。
館山は東京湾の入り口に位置する要衝だ。対岸の冨浦には陸軍の要塞砲もあったくらいだ。

海軍にあって、そもそも航空兵だった伯父が第6艦隊（潜水艦）の兵員として回天の搭乗員となったことにも大変な乗り越えるべき壁があっただろう。

その結果...伯父は終戦間際の東京湾口の館山沖に「回天」搭乗員となって浮かんでいた。
目標はただひとつ....帝都...東京湾に侵入せんとする敵艦艇の大なるものに突入すること....だけだったのであった。

やがて 東京湾上で停戦命令と部隊復帰命令を受けて館山航空隊に復帰。
軍命令はすべてに優先した.....伯父も回天を操縦して帰港。

その後の状況は 伯父は黙して語らなかった。

「あんな惨め（みじめ）なことはないよ....」「甥のお前にも話せないな...許してくれ.....」と聞いて何を願えただろう？

回天特攻隊は東京湾口の館山航空隊基地の沖でその終焉を迎えたのだった。

だから　皆が何と言おうと40年も前から私は館山に通っては伯父の心を反芻してみるのである。人の努力が意味が有るのか否かを確かめたくて....だ。





ふーん....そうか。

で終わる最近の人はイイ。祖父・伯（叔）父・実の父がその関係者だったならどうするのか？.....いやどう思うのか？

それが私である。

.......国状がどうか.....だろうか。

人間、いまこの瞬間の判断がすべてではないだろうか。

与えられた命をどのように使うか。

その選択が強制だったか....志願だったか。

僅かにその差が残るのが特攻だろうと思う。